任意整理と個人再生とは?住宅ローンが残っている場合の借金解決方法

借金の返済が苦しくて債務整理を検討しているけれど、債務整理をしたら自宅を手放さないといけないのでは?と不安を感じませんか?

結論から言うと、持ち家(マイホーム)を処分せずに債務整理する方法はあります。

自宅を残したい場合や、住宅ローンが残っている場合の債務整理はどのように行えばよいのか、方法を詳しくまとめました。

住宅を残すなら任意整理か個人再生を

みるみるうちに増えてしまった借金…。何度も借入を繰り返すうちに多重債務状態になって返済できなくなってしまったということは少なくありません。

返済ができなくなったとき、債務整理を行うのがベストな解決方法です。多重債務に陥っても弁護士や司法書士に依頼し、法的な手続きをとることで借金問題は解決できます。

債務整理には大きく分けて、任意整理、個人再生、自己破産の3つの手続きがありますが、自己破産では持ち家を残すのは不可能です。

自己破産の場合は、借金を全額免除してもらうのと引き換えに、本人名義の住宅や車などの財産を手放す必要があるからです。

自己破産では、住宅ローン支払い中の場合でも支払いを終えている場合でも住宅を手放さないといけません。

住宅を残したまま債務整理を行うなら、任意整理と個人再生が有効です。具体的な手続き方法については後ほど説明します。

住宅ローンの仕組み

債務整理の方法を紹介する前に、まず、住宅ローンの仕組みついて簡単に説明します。住宅や土地を購入する際は、住宅ローン会社からお金を借り入れし、20年や30年といった長期間にわたって分割払いしていくのが一般的です。

住宅や土地は不動産購入費用なので高額な場合が多く、長期での分割払いとなるため、貸す側は返済されなかった場合リスクが伴います。

そのようなリスクに備えて、所有している不動産を抵当に入れる「抵当権」があります。

抵当権とは?
住宅ローンを組む際に、購入した不動産に対して設定する権利のことです。債務者が返済を契約どおりに行えなかった場合に、住宅ローン会社が物件を差押え、競売にかけて売却し、そのお金を回収できる権利です。

つまり、住宅ローンを貸すけれど、返済できなかったら家を売りますよという契約で、「抵当権を設定する」とは、不動産を担保にしておくという意味です。

住宅ローンを借りると必ず抵当権を設定しないといけないわけではないですが、担保がいらない無担保住宅ローンをのぞいて、ほとんどの場合抵当権を設定するのが通常です。

抵当権を設定しておけば、住宅ローンの支払いが延滞しても、住宅ローン会社はその不動産を競売にかけて優先的に返済を受けられます。

一般的に、3~6ヶ月住宅ローンの返済を滞納すると、住宅ローン会社から督促状が届きます。それでも返済できなかった場合、抵当権を設定した不動産は差し押さえられます。そして、競売が実行され、落札者へ引き渡され、そのお金は住宅ローンの返済費用として回収されるという仕組みです。

住宅ローン会社にとって、抵当権は強力な担保権となるので、住宅ローンそのものの大幅な条件変更や減額の交渉には応じてくれないことがほとんどです。

住宅ローンが残っている中で借金を整理する場合は、住宅ローンを今までどおり払い続け、住宅ローン以外の借金を債務整理するのが現実的な方法といえます。

任意整理の場合

では、住宅ローンを継続して払いながら債務整理する方法を紹介します。まずは、債務整理の中で最も多い手続き「任意整理」での解決方法です。

任意整理とは?
弁護士や司法書士が債務者の代理人となって債権者と交渉することで、借金を減額できる手続きです。利息をカットして元本のみを分割して3~5年で返済していくため、負担は軽くなり、完済までのスピードも早まります。

任意整理は、自己破産や個人再生に比べて生活への影響が少なく、裁判所を通さなくてよいため、専門家に任せれば手続きは簡単です。財産を失うことなく借金を整理でき、家族や会社にもバレにくい方法です。

基本的に債務整理をしても周囲に知られることは少なく、任意整理は特に安全な方法です。バレるとしたら会社からの借金や共済組合などからの借金を整理した場合です。

住宅ローンは任意整理しなくてよい

任意整理では、整理対象にする借金を選べるというメリットがあります。「A社の借金は減額したいけれど、B社のローンは今までどおり返し続けたい」というように、特定の借入先にだけ任意整理を申し込みできます。

債務整理は、一部の債権者のみに債務整理してはいけないという「債権者平等の原則」がありますが、任意整理は債権者と直接交渉する私的な方法なので、対象を選ぶことが可能です。

自己破産と個人再生は、裁判所を介した手続きとなるため、対象債権者を選ぶことはできません。

任意整理で対象債権者を選ぶとき、住宅ローンは外したほうがよい借金のひとつです。対象から外せば住宅ローンはそのまま払い続けられます。

住宅ローンを対象債権者に選ぶこともできますが、そうすると、以下の3つの問題が生じるため、得策とはいえません。

返済できなかった住宅ローンが保証人に請求される
住宅ローンを任意整理の対象にすると、保証人に借金の一括請求が行われてしまいます。住宅ローンは、返済できなかったときの担保として保証人を立てることが多く、一括請求が行われると保証人になってくれた人に多大な迷惑がかかってしまいます。
抵当権が実行される
前述したように、住宅ローン会社は抵当権を持っているため、抵当権を実行して住宅を競売にかければ回収が見込めます。競売にかけられたら、住宅を手放さなくてはならず、売却した利益で住宅ローンを返済していくことになり、不足分があれば借金として残ります。
返済額が極端に増える可能性がある
任意整理で減額された借金は3~5年かけて返済するように計画が立てられます。住宅ローンを任意整理の対象にすると、住宅ローンの残り具合によっては返済期間が予定より大幅に短くなるため毎月の返済額が極端に増えてしまいます。

このように、住宅ローンを任意整理の対象にしてしまうと、さまざまなデメリットが発生します。本当に支払いが困難な場合のみ、自宅の売却も視野に入れ、判断する必要があります。

任意整理では、住宅ローン以外の債権者を対象に交渉をしていく方法が通例です。

任意整理しないほうがよい借金

住宅ローンのほかにも任意整理の対象から外した方がよい借金があります。以下の5つです。

  • 自動車ローン…売却して換金されるため自動車を処分せざるを得ない
  • 保証人付きの借金(奨学金含む)…返済義務が保証人に移行するため迷惑がかかる
  • 低利子・無利子の借金、残債の少ない借金…カットできる利息が少なく減額が期待できない
  • 取引期間の短い借金…債権者に、返済する意思なく借りたと思われ、任意整理に応じてもらえない可能性がある
  • 使用中の口座のカードローン…口座は凍結される(任意整理の対象にするなら凍結前に預貯金は引き出しておく)

任意整理しなければよかった」とならないために、手続きを進める前にかならずチェックしておきましょう。

任意整理の対象を一部にする場合の注意点

任意整理では対象から外した方がよい借金があるのですが、対象をすべてではなく一部にすることで、任意整理後に債務整理のやり直しや自己破産が認められないケースもあるため、対象を選ぶ際には注意が必要です。

債務整理のやり直し
対象を一部にすることは、対象を外した借金は自力で返済していく力があるということです。

任意整理後に収入が減るなどして返済が困難になった場合、当初は対象にしなかった借金も含めてもう一度債務整理をやり直さなければならなくなるケースあります。

再び任意整理をやり直しても返済が厳しいようであれば、個人再生や自己破産を検討しなくてはなりません。

自己破産が認められない
任意整理では過払い金があった場合、過払い金返還請求を行えます。しかし、任意整理で過払い金が発生する債権があった後に、他の借金の自己破産を申請することは難しくなります。

過払い金の発生する債権を任意整理した後に、借金返済ができなくなった場合、自己破産が認められない可能性があります。

任意整理の対象を外した借金を自力で返済していたけれど、途中で返済困難になった場合に自己破産の申請をすると、最初から任意整理しておけばよかったのではと判断され、裁判所から免責許可が下りない可能性があります。

保証人に迷惑をかけたくない、住宅や車は処分したくないなど、対象を一部にするの事情はさまざまです。当初は自力で返済していけると思って対象から外しても、順調に返済していけるとは限りません。

対象を一部にする場合は、もし返済が厳しくなったときのリスクも踏まえた上で、慎重に判断しましょう。一人で判断せず、弁護士や司法書士に相談すれば適切なアドバイスをもらえます。

任意整理の流れ

任意整理はどのような流れで行うのでしょうか。手続きをすべて自分ですることもできますが、難易度が高いため、弁護士や司法書士に依頼するのが一般的です。

任意整理の基本的な流れは次のとおりです。

弁護士や司法書士に相談・依頼→委任契約→受任通知送付→取引履歴の開示請求→引き直し計算→過払い金返還請求(あれば)→和解→合意書作成→返済開始→完済

弁護士や司法書士に依頼すれば、委任契約後の複雑な手続きをすべてやってくれます。スムーズにいけば手続きが完了するまでの期間は3ヶ月ほどです。

任意整理を検討したら、まずは債務整理に強い弁護士や司法書士に相談しましょう。住宅ローンはそのままにしたいことも伝えましょう。借金に関する相談は無料で行っているところが多いので、ぜひ利用しましょう。

任意整理を希望して相談しても、借金の状況や収支状況、財産の有無などにより、任意整理できなかったり、ほかの債務整理手続きを勧められたりする場合もあります。

任意整理ではそれほど減額が期待できないため、減額されてもなお返済が苦しい場合、交渉しだいで長期の分割払いにしてもらえる可能性はありますが、利息以外の減額は基本的にできません。

任意整理で借金が減額されても、住宅ローンの返済をしながら返済を続けるのが難しい場合は、個人再生を検討する必要があります。

個人再生の場合

借金の総額が大きすぎて任意整理で減額されても払いきれない場合は、個人再生が有効です。

個人再生とは?
裁判所に借金の返済が困難であることを認めてもらい、住宅を残しながら、借金を約5分の1に圧縮できる手続きです。

毎月安定した収入のあり、これからも安定した収入が見込める人、借金の総額が5,000万円以下であることなど利用できる人には条件がありますが、借金の総額が多く任意整理で減額されても返済が難しい方や、自己破産して自宅を失いたくないという方には最適な方法です。

住宅ローン特則とは?

個人再生には、いわゆる「住宅ローン特則」があります。正式には「住宅資金貸付に関する特則」という制度で、「住宅資金特別条項」とも呼ばれます。

住宅ローン特則とは?
住宅ローンを今までどおり(リスケジュールも可)支払い続けることで、自宅を処分されないようにする制度です。住宅ローンを除く借金を減額し、分割払いできます。

住宅ローン特則を利用することで、個人再生をしても住宅ローンだけは特別に返済を継続できるため、抵当権が実行されることもなく、自宅を手放さずに済みます。

住宅ローン特則は、債務者の経済的更生をはかることを目的として、自宅を残しながら借金を整理できるように作られた特殊な制度です。借金の返済は難しいけれど住宅を残したいという人にはメリットの大きい制度です。

また、自己破産すると住宅ローンの残債を代わりに連帯保証任人が支払わなければならないですが、個人再生の住宅ローン特則では連帯保証人に影響はありません。

住宅ローンだけ支払いが継続できる理由

債務整理には「債権者平等の原則」があります。任意整理は裁判所を介さない私的な方法であるため対象債権者を選べましたが、個人再生でほかの借金を減額しておきながら住宅ローンだけそのまま支払いを継続することは、債権者平等に反する行為にならないのでしょうか?

住宅ローンは借金ではありますが、自宅という最低限度の生活を維持するために欠かせない支払いです。毎月の家賃や賃料を支払うのと同様に、住宅ローンを支払うことに不当性はないため、債権者の平等に反する行為にはならないと考えられています。

また、債務者が住宅ローンを払い続けることで、支払った分だけ抵当権の被担保債権額は減少し、不動産の資産価値は上がります。資産価値が上がると債務者の総財産の清算価値が上がります。

その結果、債権者に与える利益が増えることにもつながるため、住宅ローンだけ他の借金とは違って支払いの継続が許可されているのです。

個人再生の流れ

個人再生はどのような流れで行うのでしょうか。基本的な流れは次のとおりです。

弁護士に相談・依頼→委任契約→受任通知送付→取引履歴の開示請求→引き直し計算→過払い金返還請求(あれば)→申立て→手続き開始→再生計画案提出→認可→官報掲載→返済開始→完済

申立てまでには債権調査や書類収集などさまざまな準備が必要です。個人で申立てることもできなくはないですが、手続きが複雑なので大抵の人が弁護士や司法書士に依頼しています。

借金の総額や返済状況、収入の有無などを見てもらい、個人再生が適切な方法なのか、ほかの手続きの方が適しているのか、アドバイスをもらいましょう。

正式に依頼することになり、委任契約を結べば、弁護士や司法書士が債権者に受任通知を送付します。受任通知送付と同時に取引履歴の開示が請求され、引き直し計算や過払い金返還請求までは任意整理と同じように進みます。

個人再生は、裁判所を介するため、申立てまでにはさまざまな準備が必要で、依頼から申立てまでに数ヶ月を要します。

依頼者は収入証明や通帳、保険証券、車検証、不動産登記簿謄本、家計簿などを弁護士や司法書士に提出して財産の調査を受け、申立書類の準備や作成が行われます。

申し立てが決定すれば個人再生委員が選任されます。申立人(債務者)、代理人弁護士、個人再生委員の3人で面談を行い、申立人の返済能力を確認する履行テストを行ったあと、手続きの開始が決定します。裁判所によって個人再生委員が選任されない場合もあります。

個人再生委員は、面談や履行テストを参考に、個人再生手続きを開始すべきか否かの意見書を裁判所に提出します。問題がなければ、申立てから約1ヶ月後に手続きが開始します。

手続きが開始したら、申立人は「再生計画案」を提出しなければいけません。

再生計画案とは?
借金の減額や分割など、再生計画の元となる新しい返済計画のことです。主に、返済の開始時期、返済総額、返済方法、返済期間、住宅ローン特則を利用するかしないかなどを記載します。

計画「案」という名前ですが、自由に作成してよいわけではなく、文言など正確に細かに記載する必要があります。再生計画案は重要な書類であるため不備があれば裁判所から認可されません。裁判所で用意されている書式等に沿って、個人再生委員のアドバイスを受けながら記載していきます。

再生計画案には提出期限があり厳守しないといけません。裁判所によって異なりますが、提出期限は約3~4ヶ月後です。期限までに提出できなかった場合、手続は容赦なく廃止されてしまいます。

再生計画案どおりに返済できる見込みがあると裁判所が判断すれば、再生計画認可が決定します。申立てからここまで約5ヵ月を要します。認可されれば、約2週間後に官報に掲載されます。

官報とは?
国が発行している新聞のようなもので、個人再生と自己破産した場合に名前や住所が掲載されます。官報で知人などに個人再生をしたことを知られるリスクはありますが、一般の人や一般の会社でチェックしていることはまずないです。

これらの手続きが終わると、認可された再生計画をもとに返済がスタートします。
返済ペースは、毎月、2ヶ月に1度、3ヶ月に1度の3つから選択できます。返済期間は原則3年ですが、失業などで大幅に収入が減った場合や医療費などで返済が困難な場合は、最長5年まで延長可能です。

個人再生の手続きにかかる期間は裁判所によって異なりますが、トータルで約6ヶ月~1年かかることが多いです。

個人再生にかかる費用

個人再生は借金を約5分の1に圧縮しながら住宅も残せるという大きなメリットがあるため、債務整理の中では最も費用のかかる手続きです。

個人再生費用の内訳は、弁護士費用約50万円、裁判費用20万円~で、相場は70万円以上です。しかし、まとまったお金がなく、費用をすぐに払えなくても手続きはできます。

費用を工面できないときは、経済的に余裕がない人が利用できる法テラスの「民事法律扶助制度」があります。法テラスは、法律トラブルを抱えた人が利用できる公的機関で、全国に窓口が設置されているので気軽に相談できます。

法テラスでは、無料で法律相談ができたり、弁護士費用や司法書士費用を立替ができたりします。立替なので返済義務はありますが、月5,000円から分割払いが可能です。

また、弁護士や司法書士に相談すれば、後払いや分割払いに対応してくれるところが多いです。

法律事務所や司法書士事務所で、費用の後払いや分割払いをしても金利や手数料は発生せず、仮に発生しても少額で済みます。また、分割払いの回数も経済状況に応じて融通が利くことが多いです。

ちなみに、任意整理にかかる費用は、裁判所費用がないため債権者1社あたり3~5万円+弁護士や司法書士への減額報酬となり、費用の相場は5~20万円ほどです。

債務整理をするならまずは専門家に相談

住宅ローンがある場合の債務整理の方法を紹介しました。

債務整理は、借金解決のプロである弁護士や司法書士にまずは相談することが大切です。状況をみてもらい、どの手続きをとれば確実に生活を立て直せるのか、的確なアドバイスを受け、相談しながら決めていくことが解決への第一歩です。

債務整理を専門に取り扱っていたり、債務整理の解決実績が豊富な法律事務所はたくさんあります。借金に関する相談は、ほとんどの事務所が初回無料で行っています。借金の解決は早いに越したことはないので、ぜひ一度相談して状況の改善を試みてください。

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